※本稿は、荒木博行『努力の地図』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
幼少期から刷り込まれる「努力神話」
自動販売機は150円を入れて商品を押したら、必ずその商品が出てくる。当たり前だ。
お金を入れたら、それに見合ったリターンがよほどのことがない限り返ってくるのが自動販売機だ。
このように、努力という「硬貨」を投入すれば、報酬という望んだ「商品」が必ず出てくる。これを「自動販売機型神話」と呼ぶことにしよう。「努力は決して裏切らない」という言葉に代表される神話だ。
この神話は、健全な努力を促す効果がある。しっかり努力をすれば、必ず報われる。
だったら頑張らない手はないだろう。だからこそ、教育の場面でもこの神話は多く登場することになる。
そして、もし望むような報酬が手に入らなかった場合、逆説的に自分の努力が不足していることにもなる。だからこそ、この神話は私たちに謙虚に反省を促し、次元の高い努力へと促す、極めて教育効果の高い考え方だ。
「主人公が努力したから強豪校に勝てた」
漫画『スラムダンク』には、努力の重要性を強調するシーンが何度も出てくる。中でも主人公である桜木花道がインターハイ10日前の合宿に同行せず、一人居残り1週間で2万本のシュート練習を黙々とこなす場面は象徴的だ。
彼はそこで地味なゴール下のシュートを繰り返し練習し、結果的にそのシュート練習が山王戦のいちばん大事な最終場面で花開くことになる。読者はこの地道な努力の姿を知っているからこそ、クライマックスで感動することになるのだ。
1週間で2万本というのは、とてつもない量だ。単純平均で1日3000本弱であり、もし1日10時間練習したとしても、1時間に300本、1分間に5本のシュートを打ち続けることになる。それを休まずにやってようやく2万本だ。
これが1万本だけだったら、それだけの成果しかあげられなかったかもしれない。しかし、桜木花道は血の滲むような努力をしたからこそ、山王戦ラストの大事な場面で力を発揮できたのだ……。私たちはそんなメッセージを受け取ることになる。